はじめに
本分科会では、女子中高における情報教育の現状や学校図書館・司書教諭の役割について言及し、今後の課題について考えていきたい。
学校図書館と情報活用能力
(1)情報教育とは
−文部科学省『教育の情報化に関する手引』(2010年10月)第4章−
・児童生徒の情報活用能力の育成を図るもの
・情報教育の目標
A.情報活用の実践力 B.情報の科学的な理解 C.情報社会に参画する態度
−『図書館情報学用辞典』第4版−
「情報活用能力」の育成を主たるねらいとした教育
(2)情報活用能力とは
−『日本大百科全書(ニッポニカ)』−
情報活用能力とは、「情報や情報手段を目的に基づいて選択し、活用するために必要な個人の基礎的資質」であり、「広義に情報リテラシー」として、「膨大な情報を使いこなし、自らの目的をなし得るために重要視されてきたもの」と定義されている。
※情報活用能力(≒情報リテラシー)は2020年度の新しい大学入試制度で、従来の教科の問題を越えて出題される問題を解くために必要不可欠な能力であると考えられる。
(3)学習指導要領と学校図書館
学校図書館は、図書・雑誌・新聞・WEBなど多様なメディアを扱うことを前提に、様々な情報源の中から情報を正しく評価し、使用する能力を育成していく役割がある。情報活用能力の重要性は学習指導要領にも記載されており、特に学習の基盤となる資質能力・言語能力と並んで情報活用能力、問題発見・解決能力の重要性が記されている。また、教科等の横断的な学習を重視しており、教科等横断的な学習は学校図書館の最も得意とする部分であると考える。さらに、学校図書館は、各教科における必要な情報を揃えており、教科間の学びを調整する役割と、全教科を横断して見られることから、全教科の学びを一貫して見るという役割があると考える。
(4)学校図書館の3つの機能
@「読書センター」としての機能
健全な教養を育成し、言葉の力や豊かな人間性を育てる機能
A「学習センター」としての機能
学校の教育課程の展開に寄与し、情報や資料を根拠として用いて学びを担う機能
B「情報センター」としての機能
教科横断的な情報活用能力の育成にあたる機能
⇒今回は特にB「情報センター」としての機能について言及する
探究のプロセス
(1)汎用的な能力の育成
学校図書館の「情報センター」機能としては、生徒・教職員の情報ニーズへの対応、情報活用能力の育成があげられる。以前の図書館では、図書館の利用指導として、「自図書館の有効な使い方」を指導していた。しかし、それだけでは汎用性がなく、あらゆる場面で活用できる能力を育てる必要があるとして、利用指導の延長線上で「探究のプロセス」を体験し学ぶことで、課題解決に必要な力や情報を自ら探して活用していく力など、「汎用的な能力」を育成していくという方向に変わった。
(2)様々な探究型の学びモデル
探究型の学びとして、探究プロセスを重視した様々なモデルがある。例えば、アメリカの「Big6 Skills」やカナダの「Focus on Inquiry」、日本では、文部科学省の「探究的な学習における生徒の学習の姿」というモデルがある。
「Big6 Skills」の6つのプロセス
1.Task Definition【課題を定義する】
2.Information Seeking Strategies【情報探索の手順を考える】
3.Location and Access【情報源の所在を確認し収集する】
4.Information Use【情報を利用する】
5.Synthesis【結果をまとめる】
6.Evaluation【評価する】
⇒これらの6つのプロセスは一直線に進むわけではなく、学習の中で試行錯誤を重ねながら進む。プロセスを意識しながら学ぶことで、過程を見通す力を身に付ける狙いがある。探究のプロセスを経験し、自らプロセスを作る力を養うことが、「自ら学ぶ学習者」の目指す姿であると考える。
「探究的な学習における生徒の学習の姿」の4つのプロセス
1.課題の設定 2.情報の収集 3.整理・分析 4.まとめ・表現
⇒学習指導要領では、これらの4つのプロセスが総合的な学習の時間で取り上げられ、探究型の学習・共同的な学びを取り入れていくことで、主体的な学びの実現を目指すというように触れられている。
(3)図書・情報センターを活用した授業
学校図書館を計画的・継続的・段階的に活用することで、探究プロセスを体験し、探究方法を身に付けるという学習が重要である。司書教諭は、授業の中でT.T.(Team Teaching)として学習指導にあたる。担当教諭と相談を重ね、どのような授業にし、どのような資料を使うべきかを考え、サポートをしていく役割がある。また、学校図書館として、学年間・教科間の連続性のある発展的な学びを計画していくという役割もある。本校では、探究型の学習を目指して、様々な授業で図書・情報センターを活用している。主に、総合的な学習・総合的な探究の時間では、比較的大きなプロジェクトを長期間に渡って行っている。中2、中3、高3と授業を設定することで段階的・計画的・継続的に情報活用スキルを指導することができる。
【図書・情報センターを活用した授業計画】
・中学2年生:総合的な学習の時間
・中学3年生:総合的な学習の時間
・高校3年生:総合的な探究の時間
・各教科の授業
【図書・情報センターを活用した授業例】
(例)中学3年生:総合的な学習の時間:「Big6 Skills」に当てはめると
1学期:人権教育に関わる人物を班で調べ、ポスターを作成する
⇒プロセスの4,5,6に重点を置いた授業
2学期:現代の人権問題を取り上げ、個人レポートを作成する
⇒プロセスの1,2,3,4,5に重点を置いた授業
3学期:作成したレポートを基に個人発表を行う
⇒プロセスの5,6に重点を置いた授業
授業例のように、一つの課題で全てのプロセスに重点を置くのではなく、段階的に重点を置くプロセスを考えて行っており、これらの授業は長期間で計画的に行えるからこそできる指導となっている。
【図書館ガイダンス】
本校で実施している図書館ガイダンスでは、問いの作り方や、各メディアの特徴・利用方法、情報のまとめ方、著作権(参考文献の書き方、引用の方法)などを段階的に指導している。
(4)各教科の授業における図書・情報センターの活用
総合的な学習以外でも、各教科の授業で図書・情報センターを活用した授業を行っている。各教科が必要に応じて行うため、短期間ではあるが、探究のプロセスのどこに重点を置いた授業にするのかを担当教員と相談して決定する。教科の目標と図書館の目標に合わせて課題の内容や準備する資料を決定するため、図書・情報センターと各教科の担当教諭の連携が重要となる。
今後の課題
(1)ICT環境の整備
単にICT環境を整えるというだけではなく、環境を整えるうえで、どのような情報教育ができるのかを考えることが重要である。新たな技術・機器を導入することによるメリットやデメリットを検討し、これからの世界を生きていく中で育むべき力を見通し、環境の整備にあたらなければならない。
(2)シンキング・ツールの活用
汎用性のあるシンキング・ツールを授業で活用することが重要である。汎用性のあるツールを使用することで、図書・情報センターでの授業だけではなく、あらゆる場面で活用できる論理的な思考力を育むことができると考える。
(3)アクティブ・ラーニング「主体的・対話的で深い学び」の促進
主体的・対話的で深い学びを目指すアクティブ・ラーニングでは、教師が授業の道筋をコントロールするというよりも、教師も生徒と一緒になって試行錯誤をしながら、授業の目標へたどり着くという学びが重要である。生徒の自主性が高まる程、授業の方向性の予測は難しくなり、授業の準備も大変になる。アクティブ・ラーニングを進める中で、図書館・司書教諭は計画的な指導計画を考えなければならない。司書教諭という、情報活用の専門家として、生徒により良い授業を作っていかなければならない。
まとめ
情報活用能力を育成するうえで、学校図書館の活用方法は沢山ある。様々なメディアを揃え、教科を越えた学びを提供することができるのが強みであり、「学び方を学ぶ」場所の提供が学校図書館の役割であると考える。情報活用能力の育成、生徒と情報を繋ぐ架け橋として司書教諭は重要な役割を担っている。情報活用の専門家としての存在意義を考え、今後も精進していきたい。