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入学式・卒業式 祝辞

同志社総長 八田 英二

2019年度入学式祝辞

 校祖新島襄は明治23年1月23日、神奈川県大磯の地で病のため天国に召されました。46歳の、それこそ全速で駆け抜けるような短い人生でした。亡くなる2日前、早朝午前5時、10ヵ条の遺言を口述し、門弟の徳富蘇峰に筆記させています。そのひとつには「同志社ニ於てハ倜儻不羈なる書生ヲ圧迫せす務めて其の本性ニ従ひ之か順導し以て天下の人物ヲ養成す可き事」と書かれています。新島が愛してやまなかったのは倜儻不羈の学生ですが、逆に嫌ったものは「わが校の門をくぐりたる者は、政治家になるもよし、宗教家になるもよし、実業家になるもよし、教育家になるもよし、文学者になるもよし。かつ少々角あるも可。奇骨あるも可。ただかの優柔不断にして安逸をむさぼり、いやしくも姑息の計をなすがごとき軟骨漢には決してならぬこと。これ予の切に望み、ひとえに願うところなり」としています。

 新島の理想とする人物育成を教育事業の根幹とする同志社大学は、ここ京田辺キャンパスのデイビス記念館で2019年度入学式を厳かに挙行しています。本日から晴れて同志社大学生となられた新入生の皆さんに同志社総長として心からの祝福を贈ります。ご入学おめでとうございます。真理の探究という知的欲求と情熱を胸に、皆さんは昼夜を問わず勉学に勤しんでこられました。皆さんの努力に深く敬意を表します。

 また、式典に臨まれている、ご父母、ご家族の皆様にも心からお祝いを申し上げます。長年の間、手塩に掛けて育まれてこられたお子様の晴れ姿を目の当たりにされ、感慨も一入かと存じます。これからは学問的にも人格的にも見違えるほどの成長が見込まれます。

 歴史と伝統を誇る同志社大学に新入生を迎えるこの入学式は、教職員にとりましても大きな感動を覚える式典です。一点の曇りもない皆さんの輝くような眼差しを浴びるとき、前途有為な若者を、建学の精神に基づき教育するという崇高な使命に携わる喜びとともに、果たすべき責任の重さに改めて身の引き締まる思いをしています。

 本学の前身は明治8年に新島襄が創立した同志社英学校です。本年で144年を迎えています。新島は同志社創立にあたり、「自ら立ち、自ら治むるの人民の育成」を同志社教育の目的に据えました。そして、その基盤をキリスト教主義に求めました。明治18年の同志社創立10周年記念演説で彼は「我は才力なく学力なく先導者となるに足らず、然れども我は只だ我日本を愛す、道を愛す、兄姉を愛す、諸君よ我を諸君は先生先生といわるるを悲しむ、然れども我は価なし、只だ神の意に従うのみ、神意ならば何事をも為さんと欲す、我は只だ日本を愛して事を為す人と同心なるのみ、同じく神意を奉体する者は是一つ也」と述べ、同志社教育の基本がキリスト教にあることを改めて確認しています。本学を他の大学に対して際立たせているのは、このようなキリスト教主義に立脚した人物教育に対する強い信念です。新島の教育事業に対する熱い思いは、「良心之全身ニ充満シタル丈夫ノ起リ来ラン事ヲ」と刻まれた良心碑に込められています。同志社教育が良心教育と呼ばれている所以です。知識の修得だけでなく、その知識を実生活やそれぞれの人生に、いかに活用するかの道徳原理がなければ、個人の、ひいては一国の健全な発展など望むべくもありません。新島はこの事実を看破し、京都の地に私立学校を開いたのです。

 いままで皆さんは、肉眼で物事を捉え、理解し、次の行動の指針としてこられたことでしょう。これからの4年間、皆さんは喩えれば3つの鏡を手にされることになります。そして、3つの鏡をどうぞ細心の注意を払いつつも、存分に使いこなしていただきたいものです。その鏡とは顕微鏡、望遠鏡そして姿見です。勉学はいうに及ばず、読書、友人との交わり、教師との触れ合い、課外活動などにより、学問的にも人間的にも、皆さんの視野は広がっていくことでしょう。社会現象にせよ自然現象にせよ、あまりにも微小で、或いは、はるか彼方で見えなかったもの、過去のもの、或いは未来のものも手に取るように見えてくるはずです。あたかも顕微鏡や望遠鏡という強力な武器を人類が手にし、科学が発展したのと同じです。常に好奇心をもち、さまざまな視点や角度から対象を冷静に分析し、その結果を貪欲に吸収し続けてください。しかし、時には自分自身の外面や内面を3番目の鏡、姿見で冷静に観察するように心掛けてください。同志社大学で教育を受けているという自覚と誇りを胸に、鏡の曇りを防いでください。

 現在は過去の延長線上にあることは確かです。しかし、将来を過去から現在への延長線上に求めるよりも、むしろ将来を設定し、そこに到る道筋を現在から描いてください。同志社はその名のとおり、若者の「志」を重視する教育組織です。

 皆さんのこれからの4年間が、知的好奇心に溢れ、新たな出会いに満ちたものであるように、そして神様の恵みが豊かにあるように祈念して私の祝辞といたします。

 ご入学おめでとうございます。

(2019年4月1日同志社大学入学式)

2018年度卒業式祝辞

 1864年6月、新島襄は国禁を犯して函館から脱国いたしました。都合10年の滞米中に、後の同志社英学校の設立にとって運命的な出来事がありました。岩倉使節団との出会いです。明治政府は、今後の国家の形を構想すべく、岩倉具視を団長に欧米視察団を派遣しました。使節団には後の同志社英学校の設立に多大な貢献をした木戸孝允や田中不二麿も加わっていました。使節団は1872年にワシントンに到着しましたが、その際に新島に声がかかり、以後、新島は使節団に同行し、アメリカはもとより、ヨーロッパ各国の教育事情や制度を視察し、田中による欧米教育制度報告書『理事功程』の作成にも大きく貢献いたしました。

 田中は新島の人格や識見に痛く感服し、視察中に文部省への仕官を懇願したほどです。1875年、新島が同志社英学校の設立に奔走していた時、文部大輔であった田中は京都を訪れ、3日2晩にわたり新島に再度、文部省への仕官を説得しました。しかし新島の、官に頼らぬ私学同志社における一国の良心育成という決意は微動だにせず、「官僚になってはキリスト教主義による人格教育ができません。私はあくまでも一市民としてキリストの精神をもって、人民の自由のために闘います」と固辞しました。その後、新島は「私は、この地で数百数千の新島襄を養成したい」という書状を田中に認めています。また「将来、日本第二の維新、日本心霊上の維新はまた吾人青年の手にあるものなり」とも述べています。これは永遠の青年新島の見識と覚悟を示すものです。

 本日の卒業式は、次代の維新を担うべき、若き数百名の青年新島襄を社会に送り出そうとしています。ご卒業、そしておめでとうございます。心からお慶び申し上げます。また式典に臨まれているご家族には、お子様の晴れの姿を目にされ、感慨も一入かと存じます。これまでの本学の教育・研究活動に賜りましたご厚情に、教職員を代表して厚くお礼申し上げます。

 新島が大志を抱き、設立に全力を注いだ同志社で良心教育を受け、皆さんは同志社人として巣立とうとしています。新島がこよなく愛してきた同志社人として、これからは思う存分に同志社教育の成果を世に問うて下さい。

 学校での生活を終え、皆さんは幅広い専門知識とともに、その知識を活用する知恵をも身に付けられました。それを糧として、これからは地の塩、世の光となって下さい。ここで培われた新島精神と人生を切り開く勇気が皆さんには備わっているはずです。

 振り返ると在学中、皆さんは多くの汗とともに涙も流されたことでしょう。感動の渦に感極まったこともあったと思います。青春の多感な時期だけに、数多の出会いも経験されたはずです。これまでに、どれだけの人に幸福を運びましたか。どれだけの人を許されたでしょうか。そして、どれだけの一生付き合える友人を見つけましたか。友人は皆さんの人生をいっそう実り豊かなものにしてくれる大切な宝です。もとより人格陶冶こそ私たち人間の取り組むべき終わりなき課題です。

 同志社の教育に対する信念は「良心之全身二充満シタル丈夫ノ起リ来ラン事ヲ」と刻まれた良心碑に込められています。時代を超えて、良心教育を受けた人物を社会に送り出す日は同志社教育の成就の日です。これまでに数十万人の有為な卒業生が巣立ち、同志社人として実社会のさまざまな分野で活躍しています。

 皆さんの目的地はそれぞれ、皆さんをそこへと導く手軽で安易な海図などありません。晴れる日、曇る日、嵐が吹き荒れ、大波の押し寄せる日もあるでしょう。浅瀬に乗り上げ、しばし座礁されるかもしれません。しかし必要な海図と羅針盤は、実に皆さん一人ひとりの胸の内、志の内にあります。皆さんには志を高く掲げ、目標に向かって、生涯にわたり、努力を重ね、悔いのない人生を送って下さい。

 私学同志社で培われた「学ぶ心」と「新島精神」を忘れず、一歩一歩着実に歩んで下さい。そして、どんな時でも同志社は皆さんのことを想い、お帰りを温かく待っていることを心に刻んでおいて下さい。ここは皆さんの青春の原点、そして永遠の故郷、母校です。

 皆さんは、今まさに青春の真只中です。米国の詩人サミュエル・ウールマンには、「青春」と題する詩があります。「青春とは人生の一時期をいうのではなく、怠惰を退け、飽くなき挑戦する心の状態をさす。人は年齢とともに老いるのではなく、挑戦する心を失うことにより老いる」と詠んでいます。

 同志社を巣立つ皆さんには、かつての新島の如く、いつまでも挑戦する心を失わず、青春を貫いて下さい。神の恵みは常に皆さんと共にあることを信じて下さい。

 卒業生の皆さん一人ひとりの行く末に大いなる期待を寄せて、帰るべき母校から未来へと旅立つ皆さんへの祝辞といたします。ご活躍をお祈りします。さようならではなく、皆さん、行ってらっしゃい。

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